アナログ跡地電波巡り、ワシントンは大混乱【コラム】
米国で「700メガヘルツ(MHz)戦争」が熱気を帯びてきた。2009年2月、米国ではアナログテレビ放送が終了する。それにともなって空きが生じるUHF電波の700 MHz帯は、様々な用途に利用できる貴重な電波資源として以前から注目を浴びていたが、大手通信会社とネット企業の主導権争いに加え、大統領選に向けた政争もからみ、ワシントンはてんやわんやの騒ぎとなっている。(小池良次の米国事情)
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITbo000014062007
■産業界から熱いまなざし
注目を集める700MHz帯は、これまでテレビ放送(52Chから69Ch)に利用されていた。この周波数帯は、建物や樹木があっても遠くまで届く特性を持ち、無線ブロードバンドや携帯電話など様々な用途に向いている。電波を飛ばす基地局(タワー)の数も無線LAN(WiFi)や携帯に比べると少なくて済む。この使い勝手の良さから、大手通信事業者は様々なサービスに利用できるともくろんでいた。
一方、マイクロソフト、グーグル、デル、ヒューレット・パッカード、インテル、フィリップスの6社は3月上旬、700MHz帯の一部を無免許データ通信向けに開放するように米連邦通信委員会(FCC)に要請している。これは無免許周波数のWiFiが無線データ通信を広く普及させる原動力となったためで、同グループは、マイクロソフトが製造した試作デバイスをFCCに提供し、検討を促している。このように、米国では700MHzの用途について、産業界が熱い議論を戦わせてきた。
こうした背景から、FCCは今年末をめどに無線免許のオークションを開催し、100億から300億ドル(約1兆2000億から3兆7000億円)という莫大な免許料の収入を狙っていた。想定するオークションの主体はもちろん、AT&Tやベライゾン・コミュニケーションズ、コムキャストやタイムワーナー・ケーブルといった大手ブロードバンド事業者だ。しかし、今年に入って風向きがガラリと変わってしまった。昨年11月の中間選挙で圧勝した民主党が議会での優位をテコに、競売ルールの見直しを迫ってきたからだ。
■民主党のFCC攻撃が飛び火
その予兆は、今年春から始まった議会のFCC批判にあった。3月頃から、FCCのケビン・マーチン委員長は、下院通信小委員会(House Telecoms Subcommittee)や下院通商委員会(House Commerce Committee)などの委員会で厳しい質問攻めにあった。これは「FCCが(議会が)権限を付与していない分野まで積極的に活動している」との批判で、特に下院通商委員会は「より細かな報告が必要」として委員長を頻繁に呼び出して報告を求めている。
民主党はこれまで共和党政策を推し進めてきたマーチン委員長を「格好の目標」と見立てて攻撃している。FCCに対する火の手は様々なところに飛び火し、700MHz競売ルールの見直しもそのひとつだった。
1997年に連邦議会が700MHz帯域の競売を決定してから約10年が経ち、電波の利用環境は大きく変わっている。いまや電波の用途は携帯電話だけでなく、様々な無線ブロードバンドサービスが可能だ。一方、今回の競売で主役を演じると予想される米ブロードバンドサービスのトップ4社(AT&T、ベライゾン、コムキャスト、タイムワーナー・ケーブル)は、固定網(DSL、ケーブルモデム、光ファイバー)をすでに持っており、新たに700MHz免許を取得しても固定網と無線網の競争促進にはつながらない。
その一方で、スカイプ、ヤフー、ディレクTV、エコスター、インテルなどから構成される「Coalition for 4G in America(米4G連盟)」は700MHz競売にハイテク企業が参加できるようロビー活動を活発化させた。また、5月に入ってグーグルが同団体に加盟し、大きな話題を呼んでいる。同団体はFCCにも数回、次期競売ルールに関する意見書を提出している。
提案で注目されているのは「全米一括免許」案だ。従来は、市場ごとに細かく分割した事業免許をオークションしてきたが、新規参入者は地域サービスに限定されるため、既に様々な周波数免許を持つ大手通信事業者に全米サービスで対抗できなかった。そこで新規参入者にも全米サービスができるように全米一括免許の枠を作るように提言している。
また、FCCのリード・ハント元委員長が副会長を務めるフロントライン・ワイヤレス社も新たな競売ルールを提言し、それをFCCの民主党系委員が支持したほか、大統領候補の選抜レースに関連し民主党のジョン・エドワード候補がルール見直しを積極的に支持する動きもある。
■競争ルールからネット中立性議論へ
こうしたルール見直し論はDSL、ケーブルモデムに次ぐ第3のブロードバンド整備という「競争ルール」から、次第に既存ブロードバンド事業者を競売から追い出す「ネットワークの中立性議論」へと移っている。特に、グーグルは巨大な資金力を背景に、有力ロビイストを駆使して競売ルールを中立性議論に結びつけ、大手ブロードバンド事業者の競売排除を積極的に仕掛けている。ロビー活動といえばAT&Tやベライゾンなどが最大の圧力団体としてその力を誇ってきたが、グーグルは「彼らを上回る勢いだ」とワシントン子も舌を巻いている。
こうしたハイテク企業の攻勢にさらされ、CATV事業者団体のNCTA(National Cable Telecommunication Association)を筆頭に大手ブロードバンド企業は防戦に力を入れているが、議会を牛耳る民主党に押され気味の状態が続いている。おかげで競売ルールの見直しは難航しており、競売の実施は当初予想された2007年10月が難しく、早くて年末、混乱すれば2008年春までもつれ込むことも予想される。
グーグルやヤフーなどのネット大手の戦略に、モトローラやインテル、アースリンクなどの周辺企業も相乗りの構えを見せており、成功すればコンテンツプロバイダーの息がかかった通信事業者が誕生するかもしれない。
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普通、大統領選挙の年は様々な政策が政党競争の道具に利用され、行政政策に乱れが生じる。しかし、今年は例年に増してペースが早い。まだ大統領選挙の候補者レースを戦っている状態だが、ワシントンは早くも党利党略の火花が散っている。台風の目となったFCCを軸に、米国のブロードバンド行政はますます混迷を深めそうだ。