第34回 Skype For Asteriskを解説
先ごろ,米ディジウムから「Skype For Asterisk」の提供に関する発表があった(関連記事)。SkypeとAsteriskとの相互接続が可能になる模様である。今回はこのSkype For Asteriskについて解説する。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20081008/316425/
SkypeとAsteriskの接続という点では,本連載の29回でも紹介したように,これまでもつなぐことは可能だった。ただし,いわゆるB2BUA(Back to Back User Agent)方式であって,Asteriskが直接Skypeのプロトコルを使用するわけではない。
では今回リリースされたSkype For Asteriskは何が違うのだろうか?図1はAsteriskの内部構造である。ここで図左側の「チャネル」の部分に注目していただきたい。Asteriskは各プロトコル,例えばSIP(session initiation protocol)ならSIPの,H.323ならH.323のプロトコルに対して「チャネル・ドライバ」と呼ばれるモジュールを持っている。通常これらは独立したモジュールで,それぞれが単一のプロトコルを処理するようになっている。
図1●Asteriskの内部構造
各プロトコルに対して,「チャネル・ドライバ」と呼ばれるモジュールを持っている。
今回,ディジウムが発表したSkype For Asteriskは,報道発表によれば,このチャネル・ドライバとして実装されることになっている。すなわち,SIPやH.323などのプロトコルと同様にSkypeプロトコルを直接,Asteriskが扱えるようになる意味だと解釈できる。
Skypeはサポートしないはずなのでは?
AsteriskはSkypeを直接サポートはしない,というのは以前から筆者も言ってきたことだが,これは基本的にいまだに正しい。AsteriskがSkypeをサポートしない理由は簡単で,Asteriskはオープンソースだが,Skypeはオープンソースではないということ。そもそも独自プロトコルを採用し,独自のサービスとして機能しているSkypeがオープンソースになることは,おそらくあり得ない。なのになぜ今回,AsteriskがSkypeをサポートすることになったのだろうか?その理由はニュース・リリースを細かく読んでいくと理解できる。
AsteriskがSkypeを“サポートする”条件は,実は以前から提示されていた。それは「スカイプからの歩み寄り」があればというものだ。これはディジウムにしてみれば当然で,ビジネス・パートナーとして組むことに魅力があるか否かということである。eBay傘下となったスカイプにとって,ビジネスとして利益を出すことは,従来のサービス形態では恐らく困難であったと思われる。そこでAsteriskとの相互接続も視野に入れ始めたのではないだろうか。ディジウム側にしてみれば“NAT抜けが容易で既存ユーザーの多いソフトフォン”として,Skypeは魅力的だったのだろう。
チャネルドライバとして実装されるのか?
さてこの報道,多くのメディアでの伝えられかたに問題がある。ほとんどのメディアは「オープンソースのPBX,AsteriskがSkypeをサポート」という論調になっている。これだけを読むとオープンソース版のAsteriskにSkypeの機能が取り入れられるかのような印象を受けるはずだ。
だが前述したように,Skypeはオープンソースではないし,今後もオープンソースになることはないため,Skypeの機能がAsteriskに取り入れられることはない。ここで考えられるSkype For Asteriskの姿は二つ。
(1)実はSkypeは別なアプリケーションとして実装され,B2BUA形式でチャネルドライバと通信する。チャネルドライバ側はオープンソース化される。
(2)チャネルドライバはSkypeプロトコルを扱う。このためオープンソースではなくバイナリ配布のみとなる。
AsteriskがSkypeをハンドリングする上で自由度が高いのは(2)の方である。ディジウムがわざわざ発表し,チャネルドライバで実装すると公表しているということは,(2)の可能性が高いと思われる。
このニュースを読み解くもう一つのカギが,このニュースがディジウムからリリースされた点だ。ディジウムはご承知の通り,Asteriskのファウンダであり,最大のコード・コントリビュータである。ただし企業としてディジウムが扱っている“Asterisk”は必ずしもオープンソースではない。ディジウムは「Asterisk Business Edition」と呼ばれる,オープンソースではないAsteriskを販売している。
そして実際のニュースリリースを見てみると,次のパラグラフがある(以下引用)。
“Following the beta period when the product is released, Skype For Asterisk will be sold and distributed by Digium and its worldwide network of resellers.”"
簡単に訳すと,「βテストの後,製品リリース時には,Skype For Asteriskはディジウムおよび全世界の代理店から販売されます」とある。
“will be sold”と記述されていることに注意されたい。この後に“distributed”が続くが,これには“freely”のような形容詞が付けられていないので,単に販売ネットワーク程度の意味だと考えられる。そのため,「Skype For Asterisk」は「販売される」と考えて間違いなさそうである。
またAsteriskはオープンソースであるという記述はリリース中にいくつか見られるが,Skype For Asterisがオープンソースであるかどうかの言及はない。現時点で判断するとすれば「Skype For Asteriskはディジウムの製品として販売される」ということだろう。そして,おそらくオープンソースではない。
実は,ディジウムはAsteriskに組み込むための非オープンソース製品を販売した例がある。ディジウムはAsterisk用のG.729 CODECを販売(関連サイト)している。これはオープンソースではなく,バイナリ配布のモジュールで,ライセンス認証も行われるが,オープンソースのAsteriskに組み込んで使用することができる。ここから考えるに,Skype For Asteriskもバイナリ販売でAsterisk Business Editionやオープンソース版Asteriskに組み込んで使用できるのではないだろうか。
単に「Asterisk」と記述している場合,他のデュアル・ライセンス制を採用しているソフトウエアと同様,オープンソース版か製品版かのいずれを指しているか判断する必要がある。一般的に,ディジウムが報道発表する場合は,後者の製品版Asteriskに関してである。
登場してみないと何とも判断つかないが・・・
以上は,これまでに分かっている状況とニュースリリースから読み解いた内容である。実際のSkype For Asteriskは正式にリリースされてみないと分からない。βテストが実施されるとはいっても,誰もがテストに参加できるわけではなく,選ばれた少数のユーザーだけが対象となっている。参加申し込みは可能なので,興味のある方は申し込まれてはどうだろうか。
これまでもSkypeとAsteriskを接続する製品などが発売ないしは公開されたことがあるが,どれも筆者にとっては期待外れだった。だが,今回はディジウムが正式に発表し,スカイプとディジウムの協業の意味もあるので,期待してもよいのではないかと考えている。
参考
Asteriskの情報を入手するには以下のWebページを参照していただきたい。
(英語)
ディジウム http://www.digium.com/
Asterisk http://www.asterisk.org/
VoIP Info Wiki http://www.voip-info.org/
(日本語)
日本Asteriskユーザ会 http://asterisk.gr.jp/
筆者のVoIP Wiki http://voip-info.jp/
高橋 隆雄
1962年生まれ。ニフティ・システム部を経て独立。フリーのエンジニアでもある。「AsteriskでつくるIP電話システム」の著者であり、日本におけるAsteriskの先駆け。
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[2008/10/10]