BTが先行,通信サービスの“開放”進展
英BTが次世代ネットワーク「21CN」でのサービス拡充を図るため,オープン戦略に打って出ている。具体的には,通話やSMSなどの機能を Webアプリケーションから使うためのAPI(application programming interface)を開発者に開放したことが挙げられる。こうした動きに欧州の通信事業者各社が追随している。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20081105/318563/
(日経コミュニケーション編集部)
“オープンAPI”の提供というと,米グーグル,米ヤフー,米アマゾン・ドットコムを始めとした企業が思い浮かぶ。オープンAPIとは,第三者が開発するアプリケーション/サービスに,自社のサービスの機能を自由に取り込めるようにするもの。これまではインターネット関連企業が先行していたが,通信とインターネットの世界の融合が加速し,各分野のプレーヤが相互に競争する時代を迎えた結果,通信事業者もこうしたオープン化の動きを無視できなくなってきた。
通信事業者は従来の自前主義,垂直統合型の事業戦略からの転換を迫られている。欧州では,通信事業者が自らの通信サービスの機能を第三者に開放する方向で動き始めた。
オープン化でリードするBT
英BTは,早くからオープン化に取り組んできた代表的な固定通信事業者である。同社は世界に先駆けて次世代ネットワーク(NGN)を採用。同社が「21CN」と呼ぶNGN上で,通信機能をモジュール化して提供する構想を持っていた。この構想の実現手段の一つが「Web21C」である。グーグルやルクセンブルクのスカイプといった異業種のインターネット企業を仮想の競争事業者に設定したものだ。
Web21Cの一環として,同社は2007年5月,通信サービスなどの活用を可能にするAPIの無償公開に踏み切った。具体的には,「Web21CN SDK(software development kit)」を開発者に提供。BTが持つ通話,SMS(short message service),認証といった各種通信サービスや関連する機能を第三者がWebアプリケーションに組み込めるようにした。
BTによると,SDK提供後,約半年で4100回以上のダウンロード(米マイクロソフト,米オラクルなどの大手ソフトウエア・ベンダーだけでなく,中小および個人のデベロッパーを含む)があった。さらに同社が提供するテスト環境では,2530以上のアプリケーション作成が試みられ,その内の37については商用サービスに耐え得るプロダクトになったとしている。
BTはさらに2008年夏にかけて様々な提供内容の改善を図った。具体的にはSDKのアップグレード(4月実施),デベロッパー向け開発環境のサポートの充実,さらには開放するプラットフォーム機能の更なる拡充などだ。特に後者にはユーザーからの要望が多い,課金機能などの開放を検討するといった内容が含まれる。
BTのアプローチは明確だ。自らがユーザーへのサービスの最終提供者になるのではなく,インターネット関連企業などに対して,同社の持つ通信関連やセキュリティ機能などを「卸売り」していくビジネスモデルを描いている。BTは有力なサード・パーティに同社機能を使って“マッシュアップ”してもらうことで,多様な収入源を確保しようとしているのだ。
オレンジも4月に一部APIを公開
BTのアグレッシブな動きを眺めつつ,英ボーダフォン,伊テレコム・イタリア(TI)や独ドイツ・テレコム(DT)などが同種の試みを実験ベースまたは限定的な形で展開してきた(表1)。2008年に入って,各事業者はオープン化への取り組みを積極化し始めている。
表1●通信事業者などのAPI公開状況
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先陣を切ったのは,仏オレンジである。当初,親会社のフランス・テレコムは2006年12月,自社の写真共有サイト「Pikeo」を開設し,自らオープンなビジネスモデルのサービスを手がける姿勢を見せた。しかし,そのスタンスは徐々に変わり,単独ではなく,他の有力なインターネット関連企業と連携したビジネスを志向しつつある。
その表れの一つがオレンジによるAPIのオープン化だ(写真1)。2008年4月,同社のビジネス・パートナである「オレンジ・パートナ」向けに開催した会合で,今まで限定的かつ非商用目的でのみ使用が許されていた既存のAPIの公開に踏み切った。
写真1●仏オレンジが公開するAPIを紹介するWebサイト
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主に2種類のAPIがオープン化の対象となっている。(1)「Personal APIs」,(2)「Advanced Communications APIs」である。(1)は,認証機能やオレンジが提供する各種個人向けサービス(カレンダー,コンタクト,メッセージ,プロファイル,フォトアルバム)へのアクセス機能,(2)には端末情報の通知,および各種カンファレンス機能などを含む。
業界横断的な取り組みも加速
この流れにDTも乗ろうとしている。同社は研究・開発レベルで開発者向けプログラム「Helios」を展開してきたが,今年3月から一部APIを20社のユーザーに限定して開放。アプリケーションのテストなどを実施してきた。同社では年内に通信やSMSのAPIをオープン化して,本格的な商用サービスに切り替える模様だ。
個別の事業展開とは別に,欧州では業界横断的な動きも見られる。GSMの業界団体であるGSMA(GSM Association)では,2008年に入り主要事業者の賛同による「GSMA 3rd Party Access Initiative」というプロジェクトを立ち上げた。
同プロジェクトは,現在事業者ごとに異なるネットワーク関連APIの標準化を目的としており,2008年中にはテスト環境などの提供,2009年に実環境での運用を目指している。
問われる事業者の中核事業
伝統的に自前主義によるビジネス展開を旨としてきた通信事業者が一転,オープン化に積極的な姿勢を示し始めたのはなぜだろうか。
一つはAPIの提供を通じて,音声,SMSや既存の通信サービスをWebサイトや企業向けソフトウエア,その他サードパーティのアプリケーションでもっと活用してもらうことにより,トラフィック収入などを増やしたいとの思いがある。
また,今まで通信事業者はサービス開発については,自社内で実施してきたが,APIを提供することで外部の開発者を取り込み,新たなイノベーションにつなげようとの意図も見える。
インターネットの世界でのビジネス慣行が通信業界にも影響力を及ぼす中で,それを逆手にとってバリューチェーンの重要な位置を確保し続けようとする通信事業者の生き残り戦略ともとらえることができるだろう。
ただし,この取り組みは,中長期的に見たときの通信事業のコアコンピタンスが一体何になるのか,といった根源的な課題を事業者側に問うことにもなる。 2007年秋にBTがSDKを通じて,位置情報を提供・活用するサービスを意図したものの,携帯電話事業者側が情報提供を渋ったため,実現できないというケースがあった。
位置情報や課金情報など,通信事業者にとって固有かつ競争の源泉となる情報をいかに有効に活用できるか。戦略転換を目指す通信事業者各社にとってはこれからが正念場となる。
[2008/11/20]