中国の検閲リスクがまた一つ 「スカイプ」の中国版も
インターネット電話「スカイプ」の中国版である「TOMスカイプ」でセキュリティー上の問題が発見された。チャットのログ情報などが流出してしまう状態にあったのだが、これをきっかけに中国政府によるネット検閲行為がまた一つ明らかにされようとしている。(ネット危険地帯 宮島理)
http://it.nikkei.co.jp/security/news/index.aspx?n=MMITzt000021102008
スカイプはインターネットを通して電話やチャットができ、世界で3億7000万人のユーザーがいる。中国でのサービスは05年に開始しており、スカイプ・テクノロジーズ(ルクセンブルク)と中国TOMオンラインとのジョイントベンチャーとして立ち上げられた。
問題を指摘したのは10月1日に公表されたインフォメーション・ウォーフェア・モニター(トロント大学などによる共同事業)とオープンネット・イニシアチブ・アジア(オックスフォード・インターネット研究所などによる共同事業)の共同報告書だ。TOMスカイプが日常的に「検閲」を行い、チャットのログ(メッセージ全文、日時情報)、利用者の個人情報(IPアドレス、ユーザー名、電話番号)などのデータを保存していたという。なお、音声通話の内容は含まれないようだ。
TOMスカイプ同士だけでなく、TOMスカイプと通常のスカイプとの間で行われるチャットも対象となっていた。保存されていたIPアドレスは59カ国にも及んでおり、中国国外にいる利用者も対象だったことがわかる。データは、TOMスカイプの8つのサーバーに保存されるようになっていた。
TOMスカイプがサーバーにログデータを保存するのには正当な理由もある。利用者が互いに接続中かどうかを確認する、接続中でない相手に送られたメッセージを一時的に保管する、利用者向けの広告を表示する、といった目的のためにサーバーが使われる場合だ。しかし、検閲のためにデータをサーバーに保存するとなると話は別だろう。
ところが、サーバーにセキュリティー上の問題があり、第三者が自由にデータにアクセスできるようになっていた。通常、TOMスカイプのチャットのログは暗号化されており、中身を見るには解読が必要となる。このサーバーには解読のための情報も保存されていたので、チャットメッセージが丸見え同然だった。メッセージの中には、メールアドレス、パスワード、小包の追跡番号、銀行カード番号などの情報が含まれているものもあったという。
セキュリティー的に無防備だったため、悪意のある第三者によってサーバーが不正使用されていた可能性も指摘されている。海賊版映画ファイルやファイル共有ソフト「ビットトレント」でファイルをダウンロードする際に用いるファイルの保存場所となっていた。
報告書の研究者らは、サーバーに保存されていたデータを解析した。その結果、特定のキーワードを含むメッセージが、TOMスカイプのフィルタリング機能に引っかかっている疑いがあるとしている。具体的には、「台湾独立」「法輪功」「ダライ・ラマ」「天安門事件」などが特定のキーワードになっていると考えられる。また、「共産主義者」「共産党」「胡錦濤」といった単語もログには多く含まれていた。
ただし、これが単なるフィルタリング機能なのか、それとも中国政府の関与する検閲なのかはさらに検証を続けなければ断定できないようだ。それでも特定のキーワードを含むログが保存されていて、検閲に利用できることは明らか、と報告書は警鐘を鳴らす。
スカイプのジョシュ・シルバーマン社長は2日、ブログで今回の問題についてこう弁明している。
「中国に検閲制度があるのは周知の事実。中国で営業している企業は、法令を順守する義務がある」
また、ブログによれば、ログが丸見えというセキュリティー上の問題については解決されたという。通常のスカイプ同士は影響を受けず、安全だとも説明している。
実は06年にも、TOMスカイプの「検閲」は問題になっていた。チャットに特定のキーワードが含まれていた場合に、そのメッセージを表示させないフィルタリング機能があることが発覚。当時のスカイプ社の担当者は、ブログでこう弁明していた。
「フィルタリング機能はチャットだけを対象にしている。フィルタリングに引っかかったメッセージは画面に表示されず、内容は破棄されて、どこにも転送されることはない」
しかしながら、内容はしっかり転送されて、TOMスカイプのサーバーに保存されていたのである。
中国のネット人口は1億人を超える。IT企業にとっては、非常に魅力的な市場だ。中国に進出するために、企業倫理よりも現地の法令を順守することを選んだIT企業は少なくない。
マイクロソフト、シスコシステムズ、グーグル、ヤフーといった大手IT企業も、中国のネット規制に協力していたことが発覚。06年にはアメリカ下院公聴会でも取り上げられた。その際、追及されたIT企業側は、中国の法律に従っただけと弁明している。
検閲などのネット規制に協力することの社会的不利益と、中国でサービスを展開することの社会的利益を天秤にかけた場合、後者の方が大きいとの判断がそこにはあるようだ。しかし、企業経営として見た場合、政治的にどうこうという話ではなく、サービスの安全性という観点から消費者の信頼を失うおそれもある。